福岡地方裁判所 昭和63年(行ウ)1号 判決 1991年1月16日
原告
平和第一交通有限会社
右代表者代表取締役
花田謙
右訴訟代理人弁護士
大石幸二
同
三浦啓作
同
奥田邦夫
被告
福岡県地方労働委員会
右代表者会長
倉増三雄
右指定代理人
青柳栄一
同
山本進平
同
津村建次
同
内野勝二
同
橋本千恵
同
中富倫彦
参加人
平和タクシー労働組合
右代表者執行委員長
松尾勇夫
右訴訟代理人弁護士
馬奈木昭雄
同
内田省司
同
三溝直喜
主文
一 被告が、福岡県地方労働委員会昭和六一年(不)第九号不当労働行為救済申立事件について昭和六二年一一月二〇日付けをもってした命令中、主文2項及び3項、並びに4項のうち(3)及び(4)に関する部分を取り消す。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、参加によって生じたものを含めてこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告及び参加人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が、福岡県地方労働委員会昭和六一年(不)第九号不当労働行為救済申立事件について昭和六二年一一月二〇日付けをもってした命令を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁(被告)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 参加人(以下「組合」という)は、被告に対し、昭和六一年七月五日原告を被申立人として不当労働行為に対する救済の申立(福岡県地方労働委員会昭和六一年(不)第九号不当労働行為救済申立事件、以下「本件申立」という)をしたところ、被告は、昭和六二年一一月二〇日付けで別紙命令書記載のとおりの救済命令(以下「本件命令」という)を発し、右命令は昭和六三年一月二一日原告に送達された。
2 しかしながら、本件命令には次のとおり事実認定及び法律上の判断に誤りがあり違法であるから、その取消を求める。
(一) (家庭訪問の際の言動について)
本件命令は、原告が、原告会社の従業員に対してした身分一新の勧奨に際し、組合役員に対する利益誘導、威圧的発言及び組合員に対する組合誹謗、組合脱退慫慂の発言を行うことによる組合に対する支配介入をしてはならないとする。しかし、事実経過は次のとおりであって、本件命令には事実誤認がある。
(1) 会社買収の経緯
有限会社平和タクシー(以下「平和」という)は、かねてからタクシー業界内では、その経営及び営業実績が極めて不振であると知られていたところ、昭和六〇年八月ころ、平和から第一通産株式会社(以下「第一通産」という)と南国交通株式会社に対し、営業譲渡の話があったが、当時の経営内容は相当悪く、経営数値も不明な点が多かったので、両会社とも同年一〇月ころこれを断った。その後、昭和六一年二月ころ、平和の代表取締役社長である佐藤龍二郎(以下「佐藤」という)、代表取締役専務である水口昭雄(以下「水口」という)から第一通産に対し、再三、経営譲渡の話が持ち込まれたが、第一通産は、同年三月初旬ころ、平和の経営内容のもとでは危険を伴うとして、両社間の交渉を打ち切った。しかし、平和は、昭和五八年ころから従業員の給与を遅配し、累積赤字を計上し、同六〇年八月には年末一時金も支払えないため、組合を通じて労働金庫から融資を受ける状態で、まさに倒産寸前の状況であった。そのため、同会社の役員も困惑して、昭和六一年三月ころ、福岡県乗用車協会に経営譲渡の斡旋を依頼してきた。当時、同会社への暴力団等の介入も懸念され、佐藤と第一通産の代表取締役である黒土始(以下「黒土」という)とは共に当時の福岡県乗用車協会の副会長であった関係及び同協会からの強い要請により第一通産が平和を買収することになった。
そこで、昭和六一年六月五日、平和と第一通産との間で、平和の全社員は第一通産に対し、出資者の出資口数全部(出資総額金五一〇万円)、一般乗用旅客自動車運送事業の営業権、車両三九台及び不動産を、売却代金合計金四億四八〇〇万円(負債と相殺後の実質代金額金九〇〇〇万円、うち留保金二〇〇〇万円)で譲渡し、平和の役員は全員辞任し、第一通産が平和の従業員の雇用主としての地位を引き継ぐこと、既に発生している従業員の平和に対する退職金、賞与、賃金、社会保険料、有給休暇買上金、予告手当等は、平和の役員が負担し、その債務を第一通産が債務引受をすること等を内容とする譲渡契約を締結し、同年六月一〇日有限会社平和タクシーから平和第一交通有限会社に商号を変更した。
(2) 平和の買収時の経営状態
平和は、欠損金が、昭和五八年度一八五六万円、同五九年度一〇八〇万円、同六〇年度三三九一万円で、累積欠損金は一億〇七五六万円であり、資本金に比べ、莫大な赤字を抱え、右累積欠損金のほとんどを借入金で賄い、流動負債中借入金、未払金及び原価償却費二年分等を合算すると実質欠損金は約二億五七〇〇万円にも上っていた。そして昭和六一年五月三一日現在の貸借対照表、損益計算書には、約金六五〇〇万円の粉飾決算が計上されていた。
また、平和における昭和六〇年四月から同六一年三月までの年間輸送実績は一日一車当たり金二万〇九五六円で、久留米地区タクシー平均輸送実績の金二万三五四八円に比べ低い。これは、同会社においては、運転手の服装がまちまちで、接客態度も無愛想でサービス精神など全くなく、暴力タクシーと評価され、顧客から敬遠されていたのを放置し、なんら従業員の指導教育をしなかったためであり、また、勤務時間もまちまちで正規の出社時間はほとんど無視され、振替出勤、欠勤、有給休暇、早退等についても全く統制が取れておらず、従業員の月額運収が非常に低額で、給与月額一〇万円以下のものが月平均一一名(約一六パーセント)在籍し、久留米地区のタクシー一車一人当たりの運収平均月額金三〇万六一二四円(一車一人一日の運収二万三五四八円×乗車日数一三日)に満たない者が月平均三九名(約五六パーセント)に達していた。このような運収では、労務費自体欠損になり、労務管理費も昭和五八年度から同六〇年度の間では通常言われている経費の五五パーセント以内にとどめて置くべきものを遙かに越え、対人件費率は経営が到底維持できない程度の高額(六一パーセントから七二パーセント)に達していた。これらは、単に平和の経営姿勢及び無責任な組合対策だけでなく、組合も経営不安を認識しながら企業を倒産に追い込むごとき内容の賞与、賃金、経営管理協定を締結し、従業員の無責任な勤務態度を助長してきたもので、その無自覚、無秩序な交渉態度にも問題があった。
(3) 身分一新について
原告は、前記のような平和の営業状態を改善し、経営を立て直すには、通常の方法では不可能であるとの判断のもとに、従業員を教育し、勤務態度の改善、勤務時間、就業規制の徹底をはかり、組合に対しても、平和におけるような無責任な態度を改めて、従前の腐敗した労使関係を抜本的に改善するよう、厳正な態度で臨み、安易な妥協をせず、会社の実態を説明して、協力を求めることにした。
そこで、従業員に対し、会社が経営危機に陥っていることを自覚させ、従業員の身分一新、すなわち希望退職者を募集するとともに、全く新たな認識のもとで原告の営業方針に協力できる者に原告会社に再就職することを求めた。その際、退職に応じた者に対しては退職慰労金二〇万円を支給し、退職に応じない者には従前の地位を維持するものとした。したがって、組合役員に対する組合誹謗や組合脱退慫慂等の前近代的な労務対策はかえって原告にとってはマイナスでしかない。ちなみに平和と組合との間ではユニオンショップ協定が締結されていたのであるから、原告が、再雇用した従業員は、当然に組合に加入することとなるはずである。
原告は、組合に対し、同六一年六月一四日第一回の団体交渉において、原告の営業方針を説明し、同月二四日組合との団体交渉の席上で希望退職募集の申入れをしたが、双方に相当程度の認識のずれがあり、団体交渉は決裂した。そこで、やむを得ず原告は、当初の方針に従い希望退職の募集を原告会社の構内に掲示した。当初募集の期限を昭和六一年六月二六日とし、これを同年七月一三日まで延長したが、原告は、被告からの勧告に従い、その後は退職勧奨をしていない。
(4) 退職勧奨の態様
原告は、退職勧奨を、社内及び従業員の自宅への電話でした。
しかし、原告管理者による従業員に対する家庭訪問は、退職勧奨のために行ったものではなく、従業員教育の一環として、従業員の経済状況及び家庭状況を把握して労務管理に資するために、原告の所属する第一交通グループで使用されている管理職のマニュアルに従って、会社買収後の昭和六一年七月一日から実施した。
しかしながら、原告は、家庭訪問を巡り組合との間で紛争が生じ、組合が原告の家庭訪問を不当労働行為の口実に利用するため、また、被告からの勧告もあって、昭和六一年七月一四日からは家庭訪問を実施していない。
また、原告の管理者は、退職勧奨に際し、組合を脱退しないと再雇用しないと発言したことはないのに、被告のこの点に対する認定は、組合関係者が一方的に供述するのを裏付けなしに鵜呑みにしたものであって、事実誤認である。
(5) 筑後会の結成
原告の従業員である瀬戸、江上、藤吉、青木らは、組合と同調できないとして、原告と協調しながら労働者の地位及び労働条件を確保すべく別途労働組合を結成することにし、昭和六一年七月一日、他の従業員をも加え、第二組合たる筑後会を結成し、原告に同月一〇日、その結成の通知をするとともに団体交渉の申入れをしてきた。原告はその通知により初めて筑後会の結成を知るに至ったもので、筑後会結成になんら関与していない。
(二) (黄犬契約について)
本件命令は、新規採用者に対し、組合不加入及び組合活動禁止条項を含む試傭誓約書の提出を求めて組合の運営に支配介入してはならないとするが、原告は、新規採用者である宮原と乙丸に対し誓約書を書かせたが、その際に誤った誓約書を使用したものであって、すぐに過ちに気づき、新しい用紙に書き換えさせた。その後は誤った用紙を一切使用していない。組合は黄犬契約締結の立証として、右誓約書を提出しているが、右書証は原告が過失により使用した用紙で、原告には、黄犬契約締結の意思はなかった。本件命令は原告の右過失をとらえて従業員全体に対し黄犬契約を締結したと認定するもので、事実誤認である。
(三) (組合旗掲揚について)
本件命令は、昭和六一年七月一二日までの組合による組合旗掲揚に対する原告の行為は不当労働行為ではないとしながら、同月一三日以降の組合の組合旗掲揚については正当な組合活動で原告に不当労働行為があるとして、原告に対し、組合旗等の掲揚にかかる昭和六一年八月二五日付け処分警告書を撤回し、撤去保管している組合旗等を組合に返還するとともに原告会社敷地内の組合旗等の掲揚について組合と誠意をもって交渉しなければならないとするが、この点に関する被告の判断は次のとおり違法である。
(1) 平和を買収した当時、会社の倉庫等の施設内に赤旗等が乱雑に約三〇本程度放置されている状態で非常に見苦しいことから、原告は、昭和六一年六月一一日から組合に対し組合旗を会社敷地内に掲揚しないよう要請し、同月一四日の組合との団体交渉に際して、同様の要請をし、その後も再三同旨の申入れをしたのに、組合が一向に聞き入れないので、組合のこのような行為を全く放置していた旧経営者の対応を改めて、施設管理権を明確にするために、同月二四日の団交の決裂後に組合旗の撤去を開始し、さらに同年八月二五日付けの警告書を出したものである。原告は、組合旗を撤去する際には、その都度、撤去の予告、警告をしている。
(2) 原告は原告の施設について管理権を有しているところ、組合の会社施設を利用しての組合活動は、企業の施設管理権の行使が権利の濫用になる場合にのみ許されるところ、原告は被告の勧告により既に昭和六一年七月一三日以降家庭訪問を中止しており、同日以降は、組合が原告の施設管理権を犯してまでサービス業である原告の会社敷地内に組合旗を掲揚する必要性はない。
(3) そもそも原告の施設管理権が権利の濫用といえるには、組合旗を掲揚しなければ労使対等の立場に立てない等の組合側における高度の必要性があるとともに、会社への影響が少ないことが必要である。組合は、昭和六一年六月一一日には、組合旗を原告事務所の配車室の道路側に二本、事務所の正面入り口左側に三本、事務所の細長い敷地の奥にある車庫の正面から左側の塀に沿って多数掲揚しており、このような施設内の組合旗の掲揚状況では、サービス業であるタクシー会社においては顧客に乗車の不安を抱かせ、また、視界を遮られるために、配車室から乗客の来所を見通すことが著しく困難となり、会社業務に支障がでるのは明らかである。一方、組合旗は組合の団結を威示するものであるから、集会を開いて団結を強めるほうが組合旗を会社施設内に掲揚するよりも効果的である。組合旗掲揚は原告に対するいやがらせに過ぎず、正当な組合活動とはいえず、原告が施設管理権に基づいて違法な組合活動を是正するために組合に対し警告書を発するのは何ら不当労働行為に該当するものではない。
(4) 組合旗返還については、原告はすでに組合に対し、撤去した組合旗を返還済みであるから、もはや本件命令を維持すべき必要性ないし利益は失われている。また、原告の組合旗撤去、保管の処置は、組合が原告の組合旗掲揚の中止申入れにも拘わらず、原告の意思を無視して組合旗を立てるのでやむなくとった手段であって、その行為は不当労働行為に該当するものではない。
(四) (運収管理基本協定及び対策委員会協定の破棄通告について)
本件命令には、原告が、運収管理にかかる昭和六〇年七月二五日付け協定(「運収管理基本協定」)及び同年一二月一三日付け協定(「対策委員会協定」)について同六一年七月四日付けで行った破棄通告を撤回し、両協定の効力が存在するものとして取り扱わなければならないとするが、この判断は、次のとおり事実誤認をし、法律上の判断を誤った違法なものであって、取消を免れない。
(1) 平和は右両協定締結当時既に二億五〇〇〇万円もの負債を抱え、経営が破綻していたにもかかわらず、組合の突き上げに会い、従業員にボーナスを支給するに際し、その賃金を組合に労働金庫から借り入れてもらい、それを平和が借りることにし、その際に担保として、運収管理基本協定及び対策委員会協定が締結されたものである。右両協定の内容は、原告の売上金をすべて組合が管理し、自由に処分することを内容とするものであり、このことは、管理委員会の構成が、平和側が二名、組合側が三名となっており、経営権は組合に依存し、労使対等な立場で締結される労働条件の決定とは掛け離れた内容であることからも明らかである。このような協定は労働協約の性格を逸脱していることは明らかであり、原告は、原告の経営権を確保するにはもはや、右両協定が、原告に承継されないものとして破棄した。
また、右両協定はいつ破棄されても良い内容で、保護に値しないものである。したがって、原告が、右両協定を破棄することは不当労働行為には当たらない。
(2) さらに、不当労働行為は不当労働行為意思を要件とするが、右両協定が締結された経緯から、原告が所属する第一交通グループは、タクシー用乗用自動車を二〇〇〇台保有し、タクシー会社六〇社を擁する九州で最大のタクシー会社グループであり、安定した企業であるから、もはや、企業経営の悪化による労働債権の確保をすべき状況は存在せず、原告は、事情の変更による解約として、右両協定を破棄し得るものである。
(3) 協定書の失効
運収管理基本協定は、昭和六〇年七月二五日に締結され、有効期限は三年とされ、また対策委員会協定の有効期限も運収管理基本協定に準じるとされているところ、右両協定は締結時から既に三年を経過している。
ところで右基本協定書六条によると、いずれかにより改廃の意思表示があった場合でも、新協定成立までは本協定は有効であると規定する。しかし、これは、新協定が成立するまでは旧協定が効力を有するものという趣旨ではなく、一般的にはその後は期限の定めのないものとして存続すると解するのが相当である。したがって、原告は、破棄通告により右両協定の解除の意思表示をしているので、労働組合法一五条四項により右協定は、遅くとも昭和六三年七月二五日から、三か月を経過した同六三年一〇月二五日にはその効力は失効したものである。
(五) 本件命令の主文4項は、右(一)ないし(四)記載のとおり被告の事実誤認及び法律上の判断を誤った結果に基づくものであって、取り消されるべきものである。
二 請求原因に対する認否及び被告の主張
1 請求原因1の事実は認める。
同2は争う。
2 本件命令の理由は別紙命令書(略)の理由記載のとおりであり、被告の認定した事実及び判断に誤りはない。
3 掲揚組合旗の撤去、処分警告書の交付及び撤去旗の領置について
(一) (昭和六一年七月一二日までの行為について)
本件命令は、組合側の組合旗等の掲揚の必要性及びその態様等と、これにより生ずる原告における具体的な業務阻害の程度等原告側の不利益を比較考慮した結果、組合と平和との間で組合旗掲揚にかかる一定の慣行的事実が認められるとしても、経営者交代から昭和六一年七月一二日までの間における組合による組合旗掲揚行為は、その本数及び態様からみて正当な組合活動の範囲を逸脱したものであって、原告の組合の右行為に対する対抗手段として行われた掲揚旗の撤去及び処分警告書の交付は、不当労働行為に当たらないと判断したものである。
(二) (昭和六一年七月一三日以降の行為について)
一般的に、組合による組合旗掲揚行為が会社就業規則に抵触するなどその正当性に問題が存した場合でも、直ちにその対抗行為の不当労働行為が否定されるべきものではない。すなわち、組合旗掲揚等にかかわる当該労使間の合意ないし労使慣行が存在し、それが慣行的事実として長年月にわたり積み重ねられてきた経緯のもとでは、使用者もそのような実情を踏まえた対応、すなわちそれらを変更するために必要かつ相応の手続を組合との間において履践することが要請されるのであって、それなくしては、公正な労使慣行の確立やそれを変更若しくは是正する場合の公正な手続の確立をも期待する不当労働行為制度の趣旨が没却されることになるからである。
本件においては、組合による組合旗等の掲揚が長年労使間で殊更トラブルを起こすことなく続けられ、慣行的に定着していたことに鑑みれば、原告は、その本数や態様によって著しく業務阻害をきたす場合に緊急避難的対抗行為としてこれの撤去等が許される場合のあることはともかく、基本的には変更の必要が生じて以降の掲揚方法等につき組合と誠実に協議ないし団体交渉を行って一定の合意を形成すべく努力すべきであって、かかる努力を怠り、組合役員に対する管理職登用という利益誘導を伴う組合解散の強要、組合員に対する組合脱退慫慂、身分一新のための執拗な退職勧奨に際する組合誹謗、新規採用者に対する黄犬契約の締結及び運収管理にかかる諸協定の一方的破棄という不当労働行為並びに勤務体系変更の強行実施、昭和六一年度一時金協定の解約申入れ等にみられる組合軽視の態度を綿々として続け、組合が、被告の勧告に従って、組合旗の掲揚数を二十数本から七本程度に減少させた同年七月一三日以降も、原告の組合旗を撤去し、組合の掲揚行為を一方的にすべて就業規則に抵触するものとして処分警告を発し、撤去旗を領置する行為は、結局は組合の弱体化を意図してなされた不当労働行為意思によるものと判断できるものである。さらに、被告は、原告及び組合に対し、紛争解決のために積極的に交渉することを勧告し、また、組合は、原告の支配人広瀬博价(以下「広瀬」という)に対し、昭和六一年七月三〇日、福岡地方裁判所久留米支部の仮処分の審尋手続において、組合旗掲揚のルール形成に関する協議を申し入れ、翌三一日には団体交渉の場において同様の申入れを行ったが、原告は、終始会社施設内の組合旗掲揚は一切認めないとのかたくなな態度に終始し、誠実に協議する姿勢さえ見せていない。このような原告の態度には、組合を不当に抑圧し、その弱体化をはかろうとする不当労働行為意思が認められるものである。
三 被告の右2の主張に対する原告の認否等
1 別紙命令書理由第1の認定した事実に対する認否は次のとおりである。
(一) 1の(一)の事実のうち、昭和六二年三月一〇日の組合員数は知らず、その余は認める。
同(2)の事実のうち、本件申立時の従業員数は否認し、その余は認める。
(二)(1) 2の(1)の<1>及び<2>の各事実は認める。
同<3>の事実は認める。右各協定については、水口が、水口辞任後は無用な書類になる旨表明していただけでなく、当時の組合の執行部三役もこれを承認していた。
同<4>の事実のうち、対策委員会協定に基づく対策委員会は労使合意のうえ運収管理期間が短いとの理由で設置されなかったこと、運収管理業務に当たった組合執行委員長松尾勇夫(以下「松尾」という)及び書記長近藤に支払われた金員が賃金保障として支払われたことは否認し、その余は認める。運収管理対策委員会が設置されなかったのは、実際松尾らが運収管理業務にあたっていたので、その必要がなかったためである。また、松尾及び近藤が平和から受領した金員は賃金保障ではなく、労務対策費である。
同<5>及び<6>の事実は認める。
組合は、平和が当時退職金を支払える状況ではないことを了知しながら、従前の退職金協定による勤続年数二〇年頭打ちを二五年に延長したものである。また、組合が平和においては六一年度年間一時金協定に基づく支払を到底できない状況にあることを知りながら右のような協定を結んだのは、組合の運収管理に関する協定により平和を組合の管理下に置こうと意図したからである。
(2) 同(2)の事実は知らない。
(3) 同(3)の事実のうち、公休振替についても申請すれば比較的自由に認められていたことは否認する。組合員が秩序なく公休振替を勝手にしていたものである。
(三)(1) 3の(1)の事実は争う。被告は、昭和六一年六月四日当時春闘要求三年分未解決の状況にあったと認定するが、そもそも組合は、春闘において自交総連の統一の金額を要求していたが、右要求金額は、当時の平和では到底受け入れることのできない多大のものであり、春闘が未解決というよりは組合が一方的に要求していただけのものである。また、春闘要求の中には会社再建問題は含まれていなかった。
(2) 同(2)の事実は認める。
(3) 同(3)の事実のうち、経営者交代にあたり、従業員に関する事項は新旧経営者間ではなんら話合がなされなかったことは否認し、新経営者は労働協約の存在を知らなかったことは認める。経営者交代にあたって新旧経営者間で雇用契約の継続は合意されていた。
(四)(1) 4の(1)の<1>の事実のうち、原告が組合に対し第一交通グループの方針への協力を要請したことは否認し、その余は認める。
同<2>の事実は認める。
同<3>の事実のうち、松尾、近藤、自交総連福岡地方連合会書記次長堀田篤嘉(以下「堀田」という)と原告の取締役白川音芳(以下「白川」という)との間で、昭和六一年六月一二日、第一回窓口折衝が行われ、その席上で、現在抱えている問題等については今後団体交渉で解決を図っていくことの確認がなされるとともに、組合から、春闘要求及び会社の展望についてと題される議題で同月一六日団体交渉を行いたいとの申し入れがなされたこと、折衝の結果同月一四日午後五時から第一回団体交渉を行うと決定したことは認め、その余は知らない。
(2) 同(2)の<1>の事実のうち、白川が、各県タクシー会社で既存の労働組合を解体して企業再建を果した事例を説明したこと及び、「労働組合の存在の必要性は認めない。これが第一交通グループの方針である」と発言したことは否認し、組合が組合員全員の退職届をまとめて出せというのは組合を解散せよという趣旨であると認識したことは知らず、その余は認める。
白川は、第一通産が、他の企業を買収した結果、従業員の生活が安定し、組合を維持する必要性がなくなったことにより組合が自然消滅したことを説明したままである。
同<2>の事実のうち、白川が、近藤に対し、昭和六一年六月一八日、組合を早くまとめて会社提案をのむようにと発言したことは認め、その余は否認する。
白川は、第一通産には、乗務員から管理職に登用される道が開かれており、乗務員を励ますため、その趣旨を説明したまでである。
同<3>の事実のうち、広瀬が、組合員宮川米男に対し、一回清算して退職してもらい、新たに再雇用する旨発言したことは認め、その余は否認する。
同<4>の事実は否認する。
同<5>の事実のうち、平田健一(以下「平田」という)が広瀬の同級生であり、昭和六一年六月二二日当時既に退社していたことは認め、その余は知らない。
同<6>の事実のうち、昭和六一年六月二四日午後二時から組合から執行委員五名及び堀田が、原告から白川が各出席のうえ第二回団体交渉が行われ、白川がその席で身分一新につき話をし、過去の労働未払債権は支払うと申し出たこと、当日の団体交渉が決裂したこと、交渉決裂後原告は退職募集の貼紙をして退職者の募集を開始したこと、同月二七日以降も右退職者募集の期間を延長し、同年七月八日付けで同月一三日までで募集を打ち切る旨通知したことは認め、白川が組合執行委員に対し、全組合員の退職届をとりまとめるよう申し入れたこと、組合が白川の発言をもって組合解散を強要するものだとして抗議をしたことは否認する。
(3) 同(3)の<1>の事実のうち、中原営業係長(以下「中原」という)が、昭和六一年六月二九日、既に退職勧奨に応じた元組合員瀬戸重隆(以下「瀬戸」という)宅を訪れ、瀬戸に対し、アルバイトである組合員久保田忠行(以下「久保田」という)への退職勧奨を依頼したことは否認し、その余は知らない。久保田は、原告会社のアルバイト運転手であり、原告の退職金規定その他諸規定が適用されないのであるから、退職を勧奨する必要性がなく、原告が、瀬戸に対し、久保田への退職勧奨を依頼するはずがない。
同<2>の事実は否認する。
同<3>の事実のうち、広瀬及び中原が、昭和六一年七月一二日午後一時三〇分ころ、組合員中島猛から訪問依頼を受け同人方を訪れたことは認めるが、同人方へ平田及び瀬戸を同行したことは否認し、その余は知らない。
同<4>の事実は否認する。
同<5>の事実のうち、広瀬及び畑三雄総務課長(以下「畑」という)が病気療養中の池松俊明(副委員長)、権藤一雄(組合員)及び原與三光(組合員)を見舞ったことは認め、その余は否認する。
同<6>の事実は否認する。
同<7>の事実は認める。
(4) 同(4)の事実のうち、昭和六一年七月一二日に白川ほか原告の管理職出席のもとで筑後会の役員を決定したことは否認し、その余は認める。
(5) 同(5)及び(6)の各事実は認める。
(五) 5の事実は否認する。
(六)(1) 6の(1)の事実は認める。
(2) 同(2)の事実のうち、昭和六一年六月二四日朝の白川及び広瀬の発言は否認し、その余は認める。
(3) 同(3)の事実は認める。
組合の抗議行動は、勤務中の従業員に参加を求めたもので、原告の営業を中断せしめ、顧客に重大な迷惑を及ぼし、原告の信用を失墜せしめることを目的としたものとしか判断できない行為である。
(4) 同(4)の事実は否認する。
(5) 同(5)の事実は認める。
(6) 同(6)の事実のうち、組合活動を禁止すると警告したことは否認し、その余は認める。
(7) 同(7)及び(8)の各事実は認める(ただし(7)の警告書の記載内容については(6)の認否と同じ)。
(8) 同(9)の事実のうち、組合が昭和六一年七月一五日組合旗を掲揚したことは否認し、その余は認める。
(9) 同(10)の事実のうち、黒土が昭和六一年七月二〇日原告会社を訪問したことは認め、その余は否認する。
(10) 同(11)ないし(14)の各事実は認める。
(七) 7及び8の各事実は認める。
2 被告の前記3の主張を争う。
四 参加人の主張
1 組合旗掲揚について
原告の昭和六一年六月二四日以降の掲揚組合旗の撤去及び隠匿行為は、以下に述べるとおり不当労働行為である。
(一) 組合は、原告の平和買収以前の三年間十数本の組合旗を掲揚し、平和もこれを認めていたものである。
(二) 組合は、平和との間で、会社の営業譲渡については事前に組合と協議するとの合意をとりつけていたのに、平和が第一通産に買収された後にその事実を知った。第一通産が従前から買収した会社での組合活動を一切認めず、そこに存立していた組合に対し、脅迫、暴力、いじめ、嫌がらせ、差別的取扱い等あらゆる手段を講じて、これを解体させてきたことは、タクシー業界の周知の事実であった。
(三) そこで、組合は、このような原告に対抗し、あらたな雇用者である原告と対等な地位を保持するため、組合員の士気を高揚し、団結を図る必要があり、組合旗の掲揚数を十数本から二十数本に増やしたのであり、これは労働組合として正当な行為である。
(四) さらに、原告が掲揚組合旗を撤去したのは、昭和六一年六月二四日の組合との団体交渉において、組合が原告の組合解散を求めた身分一新の申出を拒否したことの報復として行ったもので、そこには、不当労働行為意思が認められる。
(五) もっとも、原告は、組合旗掲揚が会社のイメージを損い、配車室からの眺望を阻害したと主張する。しかし、組合は、組合旗掲揚に際し、原告の業務に支障をきたすような掲揚の仕方をしたことはなく、配車係からそのことで苦情を言われたこともないし、節度ある掲揚方法を取っていたものである。しかも、原告の事務所が存在するところは繁華街ではなく、事務所の前の道路は人通りも少なく、原告事務所が所在する土地の隣地は広い空き地となっており、なんら外観を損うこともない。また、ここ数年来十数本の組合旗が掲揚されていたのが常態となっていたのであり、組合旗の掲揚数が一〇本から二〇本に増えたとしてもなんら外観に変化はない。
(六) 原告は、組合の節度ある組合旗掲揚に対し、一貫して組合そのものを認めず、円満な解決への努力などをとる姿勢もない。
2 身分一新及び筑後会の結成について
原告が主張する身分一新とは、組合を潰すための制度であり、そのことは身分一新に応じた者が組合に加入しない事実からも明らかである。
また、筑後会結成が原告の関与でなされた支配介入であることも明らかである。
第三証拠(略)
理由
一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 本件の基礎的事実関係は次のとおりである。
1 別紙命令書理由第1の認定した事実に記載の事実のうち、1当事者等欄記載の事実は、昭和六二年三月一〇日当時の組合員数及び本件申立当時の原告の従業員数を除き当事者間に争いがなく、参加人代表者及び原告代表者の各供述によれば、原告の現在の従業員数は約七〇名であるところ、参加人の組合員数は経営者が原告に交代以前の七八名から現在は二四名(しかもうち五名は解雇処分を受けている)に減少していることが認められる。
2 同2経営者交代前の労使関係等欄記載の事実のうち、(1)の項(経営者交代前の経営状況と労働協約の締結)に記載の事実は、対策委員会協定に基づく対策委員会が労使合意のうえ運収管理期間が短いとの理由で設置されなかったこと及び松尾と近藤に支払われた金員が賃金保障として支払われたこと(いずれも(1)の<4>の一部)を除いて、当事者間に争いがない。
3 原本の存在及び成立に争いのない(証拠略)によれば、次の事実が認められる。
平和は、昭和五〇年代後半ころから、経営の悪化を来たし、運収率が久留米地区の他のタクシー会社と比較して著しく悪く、収益が伸びず、累積赤字が増大する一方で、昭和五八年度当期(六月から翌年五月まで)の欠損金は約金一八五六万円、同五九年度当期の欠損金は約金一〇八〇万円、同六〇年度当期の欠損金は約金三三九一万円に上った。当然借入金の増大を招き、資金繰りにも困難な状況であった。昭和六一年五月末には累積欠損金が、約一億円に達した。そのため、平和の代表取締役であった佐藤は、同社の売却先を探していたが、昭和六一年六月五日、第一通産との間で、平和の出資口数全部、一般乗用旅客自動車運送事業の経営権(免許を含む)車両三九台及び同会社所有の不動産を第一通産に対し代金四億四八〇〇万円で譲渡する旨の契約を締結し、同月一〇日、「有限会社平和タクシー」から「平和第一交通有限会社」に商号を変更した。その際、第一通産は、原告が、平和から、同社の従業員との雇用契約を引き継ぐことを約束した。右により、平和の経営陣はすべて退任し、新たに原告の代表取締役に宮脇清(以下「宮脇」という)が、また常務取締役に白川が就任し、管理職には広瀬(支配人)、井上(営業係長)が着任して、白川が主体となって原告の経営を担当することになった。
三 退職勧奨に伴う不当労働行為の成否
1 (証拠略)によれば、以下の事実が認められる。
(一) 原告の経営を任された白川は、組合との交渉に先立ち、昭和六一年六月七日、自交総連福岡地方連合会の組合担当である堀田と、北九州市小倉所在のニュー田川ホテルにおいて面談し、同人に対し、第一通産が、平和を買収した旨伝えるとともに、第一交通グループの再建方針への協力を要請した。白川ら原告の経営陣及び平和時代の役員であった佐藤及び水田は、昭和六一年七月一一日、原告事務所において、堀田、組合執行委員及び代議員と会合し、その席上で新旧役員の経営者交代の挨拶を行い、社長の宮脇から、会社再建案について説明を行い、白川及び組合の書記長近藤を労使交渉の双方の窓口とすることが双方で確認され、組合は、原告に対し、翌日の六月一二日に臨時組合大会を実施する旨文書で通知した。
(二) 昭和六一年六月一二日、第一回窓口交渉が、組合側からは、委員長の松尾、近藤及び堀田が、原告側からは、白川が出席して行われ、その席上で、白川は、第一交通グループが買収した会社の買収経過等について説明するとともに、労使双方で、今後は団体交渉により現在抱えている問題について解決を図る旨提案したが、組合は、白川に対し、昭和六一年六月一六日に団体交渉をするよう申し入れ、折衝の結果、同月一四日午後五時から第一回団体交渉を実施することになった。また、組合執行部は、同月一二日臨時組合大会を開催し、第一交通グループに平和が買収された経緯を組合員に説明するとともに、第一交通グループは、これまで、買収した企業について組合を解散させて会社再建を図ってきたとの情報から、今回も組合を解散させることは必至であり、組合に対する不当労働行為が予想されるとして、各組合員に対し、不当労働行為を受けた場合に備え、その事実を書き留めるべく、メモ用紙を配布して、執行部に報告するよう要請した。
(三) 昭和六一年六月一四日、第一回団体交渉が、原告側から白川及び広瀬らが、組合側からは組合執行部五名及び堀田が出席して行われ、白川は、第一通産の沿革及び平和の買収経緯の説明をするとともに「買収前の会社は、経営的には倒産会社であり、その再建のためには全員の解雇という方法もあるが、そうではなく、会社方針に協力できる良質な労働者をもって再建にあたらなければならず、そのためには過去の禍根をすべて断ち切るために一旦退職して、すなわち、身分一新して、労使相携えて再建にあたらなければならない」との会社再建案の実施、すなわち身分一新の説明を行い、さらに、同人は、「第一交通には、組合にまさる班長制度があり、サービス産業に生きる者としては、労働組合の存在の必要性を認めない。これが、第一交通グループの方針である」と述べ、組合に対し、従業員は身分一新を図ること、組合執行部で全組合員の退職を取りまとめることに協力するよう要請した。しかし、その際身分一新の具体的かつ詳細な説明はなかった。これに対し組合は、既に聞き及んでいる第一通産のこれまでの買収した会社におけるやり方から、原告がいう身分一新の制度とは、組合を解散させるためのものであると認識し、即答せずに交渉を継続して、対応策を講じることにした。
(四) 白川は、近藤に対し、昭和六一年六月一八日、「組合を早くまとめて会社提案をのんでくれ。君は労働運動をするような男ではない。早く腹を決めて第一交通グループの管理職になれ。黒土オーナーは恩を忘れる男ではないので、おれがオーナーに頼んでやる。金はいくらいるか」等と述べ、身分一新実現への協力を求めた。
(五) 広瀬は、松尾に対し、同六一年六月一七日、「組合活動もよいが、執行部だけになって馬鹿をみる。今解散すれば得になる。自分もかつて第一交通で組合を作ったが、一日で会社にわかり、社長から呼びつけられて怒られた」と、さらに同月一九日には、「昔、堀田は平和労組でやり損なって配置転換させられた。平和の問題は地連は親身になって心配してくれない。組合を解散して第一交通の管理職になればいいじゃないか。君とは学校の先輩後輩になるから後のことはおれが責任をもって身の保障はする」と述べた。
(六) また、広瀬は、近藤に対し、同六一年六月二一日、「あんたは、管理職タイプだ。早く会社提案をまとめてくれ。どうせ組合三役が悪者になるので、早く腹を決めろ。上からの指示が来れば間引きを始める。おれは、間引き運転が大好きだ」と、さらに近藤及び松尾に対し、同月二三日、「会社提案をまとめてくれるなら、君達二人の身分、生活の保障はおれが責任をもってやる。半年くらい身を隠しておれば管理職にしてやる」と述べ、利益誘導を行った。広瀬は、組合員宮川米男に対しても、同日、「一回清算して退職し、退職後は新たに再雇用してやる」と述べた。
(七) 中原(営業係長)は、組合員楢崎豊己から同六一年六月二一日に社会保険の保険証交付督促をされた際に、同人に対し、「会社が、今このような状態だから待ってくれ。組合を脱退すればすぐにでも作ってやる」と述べた。
(八) 平田健一は、広瀬と同級生であり、前組合執行委員長であったが、既に退社していたにも拘わらず、同人に頼まれ、松尾に対し、昭和六一年六月二二日、同人宅で、「広瀬が言うには、君は管理職になれ。組合を解散すれば、近藤氏とともに会社が生活の安定を保障すると言っていた。全員が駄目なら何人でもよいから引き連れて一時退職の形を取ってくれ」と述べた。
(九) 第二回団体交渉は、同六一年六月二四日、組合側からは執行部五名及び堀田が、原告からは白川が出席して行われた。組合は、従前の労働条件の確認を提案したが、実際には原告から提案していた身分一新問題に終始し、白川は、組合に対し、(1)従業員は全員過去を清算して身分を一新すること、(2)組合執行部で全組合員の退職届を取りまとめること、(3)一回退職すれば過去の労働未払債権については、全部支払うこと、以上の申入れをしたが、組合は、原告に対し、「全員が退職しなければならない理由が不明であり、全員退職ということは組合の解散に外ならず、本来労働条件等の改善をめざすべき団体交渉において組合解散の話をするのはおかしい」と抗議し、具体的な退職条件等の話合はなされないままに団体交渉は決裂した。
(一〇) 交渉決裂後、組合は、身分一新提案は組合解体を要求するもので、不当労働行為である旨の文書による抗議を行い、他方、原告は、原告事務所において、退職者募集の貼紙を募集の期限を同年六月二七日(その後、期限は同年七月八日付けで、同月一三日まで延長された)までとして退職者の募集を開始した。そのころ原告は、自社の管理職を集め、今後の退職勧奨方法を検討し、同様の会合は、その後も度々もたれた。
(一一) 中原は、同六一年六月二九日、既に身分一新に応じていた元組合員の瀬戸宅を訪れ、同人に対し、組合員久保田忠行は正規の賃金でなく運賃水揚額の四五パーセントという特例賃金(アルバイト)で乗務しているので辞めるのではないかと話し、久保田への退職勧奨を依頼した。それを受け、瀬戸は、同日久保田宅を訪れ、同人に対し、「会社を辞めると退職金、一時金及び退職慰労金二〇万円が支払われる。どうせ組合はガタガタになるから早く辞めたほうがよい。自分も五〇万円もらった」と述べ、退職勧奨を行った。
(一二) 中原は、組合員川原貞治に対し、同六一年七月一日、同人宅で、「残るのは組合執行部だけになるので、あなたも早く金をもらって辞めた方がよい。あなたの債権と慰労金も全部計算して袋に詰めてもって来ている」等と言いながら、約五〇万円が入った袋を見せ退職勧奨を行った。
(一三) 広瀬及び中原は、翌二日再度川原宅を訪れ、川原に対し、「どうせ組合執行部だけしか残らないし、あなたも金をもらって再雇用になった方がよい。組合には分からないようにしてやるから」と述べ、前日の退職勧奨の返事を求めた。
(一四) 広瀬及び中原は、同六一年七月一二日、組合員中島猛から来訪の依頼を受け、訪問の途中で、平田、瀬戸と会ったので、右両名と一緒に中島宅を訪問した。その際、中島に対し、(1)瀬戸は、原告の退職勧奨に応じた従業員を中心に労働組合筑後会が結成された旨告げ、現在丸山兄弟、瀬戸その他十数名が加入しており、元従業員藤吉を組合役員に予定していること及び筑後会が目標としている賃金体系、勤務ダイヤ等を話し、また、同月十四日以降筑後会と組合は対立状態に入る予定であること等を説明して、筑後会への加入を勧め、(2)広瀬及び中島は、身分一新のための退職勧奨を行うとともに、同月一四日開催予定の筑後会の団体交渉への出席を勧め、(3)平田は、「会社を辞めても他のタクシー会社の運転手としてはなかなか採用されない。会社も良くなっていかなければならない」と述べた。
(一五) 広瀬及び中原は、同六一年七月五日、組合員中川原保雄宅を訪れ身分一新を勧奨し、さらに同月一三日午後三時ころ再度中川原宅を訪れ、同人に対し、持参してきた現金約六七万円が入った袋を見せ、「早く金をもらって組合を脱退したほうが良くないか。会社を辞めずに組合だけ脱退してくれ。もう時間の問題だ」と述べた。
(一六) 中原及び瀬戸は、同六一年七月一一日組合員古賀富士喜宅を、同月一六日組合員池尻外記宅をそれぞれ訪問して退職勧奨を行った。
(一七) 白川、広瀬、井上及び中原らは、同六一年六月二七日から同年一一月一九日までの間、それぞれ木村忠義、嶋満、川島秀斗、岩本孝人、小宮治夫、楢崎豊己、宮川米男、高口和己、藤井松之助、中村満夫、野田実男、稗田栄一の各組合員に対し、原告会社、各自の家庭等において、身分一新のための退職勧奨を行った。
(一八) さらに、広瀬及び畑(総務課長)は、同六一年一二月二七日から同六二年二月四日ころにかけて、病気療養中の池松俊明(組合副委員長)、組合員権藤一雄及び同原與三光を見舞った際、同人らに対しそれぞれ身分一新のための退職勧奨を行った。
(一九) 他方、原告の幹部らは、組合員でない配車係及び事務系の従業員に対しても身分一新の話をしてはいたが、身分一新の手続自体は、本件申立後その証拠調手続である証人井上の尋問の行われた同年一二月九日時点では全くなされておらず、その後の同六二年一月になってはじめて行われた。
(二〇) 原告の従業員に対する退職勧奨が行われる一方で、原告の経営者が交代したときには病気療養中で休職していた瀬戸が、昭和六一年六月二五日ころ原告の身分一新の提案に応じ、その後組合に対抗すべく会を結成するため、同じく原告の退職勧奨に応じた江上、藤吉、青木、丸山らとはかり、同年七月一日電話連絡により会の結成の話をし、会の名称を筑後会とすることにし、同月一〇日井上を通じて原告の幹部にその旨通知した。そして、瀬戸らは、同月一二日、勤務体系、賃金等の労働条件に関する原告との団体交渉を行うとの名目で、原告の寮で原告の管理職も寝泊りしている「平木花楽園」において、原告からは、白川、広瀬及び中原が出席して、実質的には筑後会の設立総会というべき集会が開かれた。その席上で、筑後会の役員が決定され、瀬戸を会長、藤吉を副会長、江上を会計とし、勤務体系及び賃金等についても協定が成立した。これを受け、筑後会会長である瀬戸から依頼された井上は、「筑後会(労働組合組織)わ(は)協定成立」と題する貼紙を作成し、原告事務所の従業員の点呼室に掲示した。筑後会は、同六一年九月一六日現在で総数約二〇名に達した。他方、組合の方は、退職勧奨に応じた組合員が脱退し、そのうち何人かは、筑後会に加入した。
(二一) 組合は、原告管理職による従業員に対する家庭訪問において、組合員への退職勧奨の攻勢が激しいことから、被告に対し、審査の実効確保の措置を申し立て、被告は、昭和六一年七月一二日の第一回調査において、原告に対し、(1)労使当事者間の紛争が現在当委員会に係属中であるとの事情を十分認識し、組合員宅を個別訪問するなど不当労働行為と疑われるような行為を厳に謹まれたい、(2)組合のなす会社敷地内での組合活動や組合旗の掲揚等については、従来の取扱に鑑み当面慎重に対処されたいとの二項目について文書で勧告を行い、さらに、この時期における個別訪問自体疑われる行為である旨口頭補足を行い、組合に対しても、組合旗の本数等については、組合側でも配慮されたいとの口頭補足を行った。
(二二) 組合は、本件申立に先立ち、昭和六一年七月二日、福岡地方裁判所久留米支部に原告を被申立人として、家庭訪問等による組合脱退の慫慂、退職勧奨禁止を求める団結権等侵害行為禁止の仮処分を申し立て、同支部は、同年一二月二六日、組合の申立を被保全権利が消滅したことを理由として却下決定をした。
以上の事実が認められる。
2 原告は、原告が組合を否定するような言動をしたことはなく、家庭訪問に際しても、退職勧奨をしたことはないし、本件命令において認定されているような管理職等の発言は一切なかったと主張し、(証拠略)結果中には原告の右主張事実に沿う供述部分が存するが、前掲各証拠によれば、原告は、原告会社には、従業員と会社間の意思の疎通を図るべき班長制度が存在しているから、組合が存在しなくても十分に従業員の労働条件の維持をはかることができるとしており、組合軽視の態度がうかがわれること、第一通産がこれまで買収してきた約六〇社中組合が現在存在する会社は数社にすぎず、それは多分に第一通産の組合嫌悪の姿勢の影響によるものと推察できること、原告は、不当労働行為については十分認識しているにもかかわらず、組合が身分一新を拒否した直後に再三にわたり管理職を集めて家庭訪問及び身分一新勧奨のためのミーティングを行い、それに基づいて、原告管理職らは執拗に利益誘導を伴なった退職勧奨を行い、退職金以外にその趣旨が曖昧な慰労金名目で金員を支払っていること、以上の事実が認められる外、右1の認定事実によれば、組合に対抗して結成された筑後会が多分に原告の意図に基づく組合への攻撃を行い、原告に新たに雇用された従業員は組合ではなく筑後会に加入していること、このことから原告が何らかの働き掛けをしたと認めざるをえないこと、さらに、昭和六一年六月二四日以降組合員の数は減少傾向にあり、本件申立時には当初七八名いた組合員が六四名になっており、本件申立以後も依然として組合員の数が減少して、現在わずか二四名になっている(しかもそのうち五名は解雇されている)が、これについては原告と組合との紛争に嫌気がさして組合を脱退しただけでなく、原告管理職らによる家庭訪問をした際の組合脱退への勧奨行為の影響を否定することができないこと、これらに照らし、原告の前記主張事実に沿う前掲各供述部分は採用することができない。
3 以上の各認定事実を基礎に検討するに、原告が、身分一新として、従業員全員を退職させ再雇用することは、原告の会社再建案として組合との協議によりなされるものであるかぎり格別問題はない。しかしながら、前記認定事実によれば、原告は、平和からその従業員に対する雇用契約を引き継ぎ、組合及び平和の従業員もこれに対し特段の異議はなく、了承していたというべきであるから、原告が、右身分一新を従業員に強制することは許されず、さらに、組合脱退を勧誘することは労働組合法七条一項の趣旨からは許されないと言うべきところ、原告は、昭和六一年六月一四日に実施された第一回団体交渉において、従業員に対し、身分一新、とりわけ退職した後の再就職の条件及び退職前の地位にともなう種々の関係についていかなる取扱をするかについて一切具体的かつ詳細な説明もなさないまま、原告の退職に応じた者には退職金以外にその趣旨が曖昧な退職慰労金を支払うと発言して執拗に退職を勧め、さらに、原告には組合にまさる班長制度がある等組合の存在を無意味なさしめるような言動を行っているうえ、原告の管理職である白川、広瀬、井上、畑及び中原らの組合員に対する前認定の言動内容からすると、同人らの所為が組合脱退勧誘に当たることは明らかである。また、瀬戸及び平田は、原告の従業員であるが、原告が平和を買収した時点では病気療養などの理由で稼動していないにもかかわらず、原告は同人らに対しても退職勧奨を行い、瀬戸らは、これに応じ、さらに、瀬戸は、格別これといった理由もなく、ことさら組合に対抗すべく筑後会を結成したものであって、筑後会結成については、その結成大会ともいうべき昭和六一年七月一二日の集会が原告の施設において原告の管理職らが出席して行われたことから原告と意を通じて行われたことが推測できること、瀬戸らの言動が原告の管理職の意を受けたものであることが認められるのであるから、同人らの言動も組合脱退の勧誘と認めるのが相当である。以上のとおりであるから、白川、広瀬、井上、畑、中原、瀬戸及び平田らの言動、労働組合法七条一項三号所定の不当労働行為に該当するものであるから、同人らの言動をもって組合に対する支配介入と認定、判断した被告の本件命令部分に誤りはなく、原告の前記主張は採用することができない。
四 黄犬契約の存在について
1 (証拠略)によれば、原告は、昭和六一年六月中旬ころ、二名の乗務員採用に際して、「試傭期間中は労働組合にも加盟せず又組合活動も致しません」という条項を含む試傭誓約書を提出させたことが認められる。
原告は、右誓約書は、原告の管理者が誤って記載させたもので、その後直ちにその誤りに気付き、新しい用紙に書き換えさせているのを被告が看過して認定したもので、被告の右認定は誤っていると主張し、(証拠略)には、右主張事実に沿う部分があり、特に証人井上の証言中には、第一通産から一括して送られてきた書類の中に、本件で問題となっている試傭誓約書が含まれていたが、中身を確かめずに、右用紙を使用したもので直ちに訂正して、新たに誓約書を提出させたとする供述部分があるが、試傭誓約書のごとき重要な書類の内容を確認せずに採用者に手渡すことは不自然であること、(証拠略)はいずれも、組合が本件申立をした昭和六一年七月五日以降に作成されたもので、原告において、原告の組合に対する不当労働行為が問題になった時点では、黄犬契約が仮に締結されていたならば、当然問題にされることは予測出来るのであるから、それ以後に作成されたこれらの証拠は、原告の右主張事実を認めるには適切な証拠であるとは言えず、他に原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
2 以上のとおりであるから、黄犬契約を認定し、これを不当労働行為であるとした被告の判断に誤りはなく、原告の主張は理由がない。
五 会社施設内の組合旗の掲揚について
原告は、組合に対し、組合旗の掲揚を禁止したが、組合が原告の組合旗撤去の警告を無視して組合旗を掲揚したため組合旗を撤去したこと、また、右警告に違反した者に対し、警告書を発したことは、原告の施設管理権の範囲内であり、なんら不当労働行為に当たらない旨主張するので、この点について判断する。
1 (証拠略)全趣旨により原告代理人弁護士奥田邦夫が平成元年五月二三日に原告事務所を撮影した写真であると認められる(証拠略)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、右認定事実を覆すに足りる証拠はない。
(一) 組合は、昭和四三年結成以降から、春闘要求時期には、三、四本程度、ストライキ中には三〇本程度の組合旗及びスローガン旗を道路に面した原告の唯一の営業所兼事務所敷地内出入り口付近及びブロック塀(会社敷地の正面に向かって左側端沿いに入口から奥に向かって設けてあるもの)に沿って掲揚し、春闘解決時には、組合旗を降ろしていた。組合は、平和の専務に水口が就任した昭和五八年一〇月ころから三年間春闘が解決されていなかったため、組合旗の掲揚を常時したままで、経営者交代の昭和六一年六月現在においては、十数本の組合旗等を掲揚していたが、組合は、これまでに平和の経営者からは、組合旗掲揚について注意及び警告を受けたことはなく、さらに、組合旗等の撤去を求められたことはなかった。組合は、第一通産が、平和を買収したとの情報を得た後、第一通産がこれまで買収してきた会社においては組合が潰されたとの情報から、第一通産に対抗するためには組合員の団結をはかる必要があるとの観点、及び平和と組合間では、別紙命令書の別紙1記載の協定書により、平和が営業を譲渡する場合には組合と事前に協議する旨合意されていたにも拘わらず、平和は、右合意を無視して、組合に何ら事前の協議もなく営業を譲渡したことに抗議するため、組合旗等の掲揚数を増やすことにし、同年六月一〇日には原告の前記営業所兼事務所敷地内の出入口付近の向かって左側には一本、右側には三本、前記ブロック塀に沿って一九本程度の組合旗を掲揚した。右組合旗には、自交総連、平和タクシー労働組合等と赤地に白で染め抜きした横幅約一メートル、縦約一・八メートルのもの、赤の無地で横幅約一メートル、縦約一・五メートルのもの及びいわゆる桃太郎旗といわれる黄色地の横幅約五〇センチメートル、縦約二メートルのものがあった。
(二) 原告の管理職らは、同年六月一一日原告事務所において、組合旗等の掲揚状況を見て、外観上好ましくなく、また、配車室前に掲揚されている組合旗のために配車室から道路への視界が遮られるために業務に支障をきたしていると判断して、組合に対し、組合旗等の撤去を申し入れたが、組合は、この申入れを無視して、その後も組合旗等の掲揚を続けていた。
(三) 原告は、白川及び広瀬が、組合書記長近藤に対し、同六一年六月二四日、「黒土オーナーが来られる時に赤旗が立っているのは非常にまずいので、その間組合旗を降ろしてくれ」と申し入れた後、同日に行われた前記三1(九)記載の第二回団体交渉が決裂した午後五時ころ、組合旗等を撤去して、原告事務所の整備工場内に収納し、右工場の出入口を施錠した。これに対し、組合は同日午後六時三〇分から三〇分間ストライキを実施して抗議した。その結果、原告は、右組合旗等を返還したので、組合は再び従前どおり組合旗等を掲揚し、原告に対し、原告の右撤去行為は不当、不法な行為であると文書で抗議した。
(四) 原告は、組合に対し、同年六月二五日、会社敷地内の組合及びスローガン旗等の掲揚を一切禁止する旨文書で通告したが、これに対し組合は、原告に対し慣行を主張して掲揚禁止通告に抗議するとともに、従前どおり組合旗等を掲揚することを通告した。そこで、広瀬は、近藤に対し、同月二八日本社ターミナル出口において、同年七月一日から三日間程の間に組合旗を原告において撤去する旨通知した。
(五) 原告は、平和買収後、組合に対し、第一交通グループ共通の就業規則を採用することを通告し、これを労働基準監督署に届出をするとともに、原告従業員控室に掲示していた。そこで、原告は、右就業規則に基づき、組合に対し、同六一年七月三日、「(1)会社敷地内に許可なくして赤旗一切を掲げることを厳禁する(就業規則八条九項)。(2)この警告に違反した場合は実力をもって排除し、責任者については処分する」との警告書を発したが、組合は、これに対し翌七月四日、原告の警告書は団結権の侵害であり、組合破壊を目的とした違法な不当労働行為である旨文書で抗議した。さらに、原告は、組合に対し、同年七月一一日、前記七月三日付け警告書と同一内容の警告書を発した。
(六) 組合は、前記三1(三)記載の実効確保の措置勧告を考慮して、同年七月一三日以降組合旗の本数を六、七本程度に減らし、原告事務所の出入口付近の道路沿いに旗を左右に各一本ずつ、前記ブロック塀沿いに四本程度掲揚するようになったが、同日以降も正面道路沿いに数本、ブロック塀沿いに五本程度掲揚されていることもあった。これに対し、原告は、同月一四日午後八時ころ、掲揚されていた組合旗を撤去したので、組合は、翌一五日午前八時三〇分から三〇分程度原告の右行為に抗議するためストライキを行い、組合旗の掲揚を行った。そこで、広瀬は、近藤に対し、同月二〇日、黒土と従業員との懇談会に先立ち、組合旗の掲揚を撤去するよう通告した。
(七) 組合員原武正三郎、同近藤政和は、同年八月二五日午後一時ごろ組合旗を掲揚していたところ、畑から処分すると言われたにもかかわらず、組合員広重凱、同本多末雄、同穴見巌と一緒になり組合旗を掲揚した。そこで、原告は、同日組合委員長の松尾並びに組合員原武正三郎、穴見巌、広重凱及び本多末雄に対し、組合旗掲揚は就業規則八条九項に違反するので、今後は厳重に処分するとして警告書を発した。
(八) 組合員は、その後も同年一二月末まで一貫して原告施設名に組合旗を掲揚してきた。一方、原告の管理職及び職制は、組合が組合旗を掲揚すると、これをただちに撤去するという状態が繰り返された。
(九) 当初ころは原告に撤去された組合旗は、原告事務所の整備工場に収納されていたが、原告は、同年九月中ころと同年一一月初めころ領置した組合旗の預り書を書いて組合に交付し、平成元年になって、右預り書を書いた分については、組合に返還した。しかし、所在不明の組合旗もあるようである。
(一〇) 組合は、被告の勧告に従い、また、原告との間で何らかの組合旗掲揚のためのルール作りを図ろうと、同年七月三〇日前記久留米支部の団結権侵害禁止の仮処分で行われた審尋手続において、裁判所からの勧告に従って原告に組合旗掲揚のルール作りについて申し入れたが、原告はこの申入れを拒否して、一切の組合旗掲揚を認めなかった。昭和六二年二月以降は、組合も組合旗の掲揚をしていない。
以上の事実が認められ、(証拠略)の結果中右認定事実に反する部分は、前掲各証拠に照らし採用することができない。
2 右認定事実を前提に原告の組合旗掲揚を禁止した行為が不当労働行為に当たるか否かを検討する。
(一) 企業に雇用されている労働者は、企業の所有し、管理する物的施設の利用をあらかじめ許容されている場合が少なくない。しかしながら、この許容は、特段の合意がない限り、雇用契約の趣旨に従って労務を提供するために必要な範囲において、かつ定められた企業秩序に服する態度において利用するという限度にとどまるものであることは、事理に照らして当然であり、したがって、当該労働者に対し右の範囲を超え、又は右と異なる態様においてそれを利用しうる権限を付与するものということはできず、労働組合が当然に当該物的施設を利用する権利を保障されていると解すべき理由はなんら存在しない。もっとも、当該企業に雇用されている労働者のみをもって組織される労働組合(いわゆる企業内組合)の場合にあっては、当該企業の物的施設内をその活動の重要な場とせざるを得ないのが実情であるから、その活動につき、右物的施設を利用する必要性の大きいことは否定することはできないところであるが、労働組合による企業の物的施設の利用は、本来使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきものであることは、既に述べたところからも明らかであって、利用の必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員の組織活動のためにする企業の物的施設の利用を企業が受忍しなければならない義務を負うべき理由はないというべきである。したがって、労働組合又はその組合員は、使用者の所有し、管理する物的施設であって、定立された企業秩序のもとに事業の運営の用に供されているものを使用者の許諾を得ることなく組合活動のために利用することは許されないというべきであるから、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対し、その利用を許諾しないことが、当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、職場環境を適正良好に保持し、規律ある業務の運営態勢を確保しうるように当該物的施設を管理利用する使用者の権限(施設管理権)を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動として許されるものということはできないと解すべきである。
(二) そこで、本件について検討するに、右1に認定した事実によれば、組合が掲揚した組合旗等は、昭和六一年六月一〇日ころにはその数が二〇本に及び、原告事務所の美観を著しく損ない、通行人や乗客に奇異な印象を与えるものであることが認められ、また、掲揚されている旗は、原告の従業員又は通行人、乗客の目に直ちに触れる状況であり、ひとたび掲揚されると組合による撤去は期待できず、視覚を通じて常時組合活動に関する訴えを行う効果がもたらされ、原告は久留米市及びその近郊の住民を主な顧客とするタクシー業者であり、経営状態が前認定のとおり数年来赤字に終始していた会社で、経営の改善が急務とされていたのであるから、会社の営業所を兼ねる主たる事務所に組合旗が右のような状態で掲揚されていることは、営業上も軽視することのできない問題であったというべきであり、そのうえ実際面でも、配車室前に掲揚されている組合旗により視界が遮られ原告事務所への乗客の来訪の確認が困難となっていたということができる。このような状況下において原告が、原告事務所内の秩序を保持するために組合に対し組合旗等を掲揚することを禁止し、その旨の通告を行うことは、原告の施設管理権の範囲でやむをえない処置であるといわなければならない。しかるに、組合は、原告に対してあらかじめ組合旗掲揚の許諾を得ることなく、さらには、原告の通告を無視し、組合には、組合旗掲揚の権利が慣行上認められているとの見解のもとに組合旗の掲揚を行って来たものということができる。
この点について、参加人は、組合旗掲揚について慣行の存在を主張するが、前記1に認定したとおり、従前春闘がなされていた際には組合旗を掲揚しており、このことについて平和から格別注意されていなかった事実はあるが、(証拠略)によれば、水口は、平和時代には組合の組合旗掲揚についてなんら注意することはなかったが、組合に許可したことはなく、慣行として認めたこともないと供述しているところ、そもそも平和は第一通産による買収前の数年間赤字経営で、従業員の給与の支払も遅滞がちで、力関係上組合に対し、組合旗の掲揚について云々いえるような状態になかったものと推測され、このような放任状態にあったことから直ちに平和と組合間に会社敷地内での組合旗掲揚の労使慣行が存在していたものと認めることはできず、他に参加人の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
そうだとすれば、原告は、組合に対し、幾度か組合旗掲揚を禁止する旨の注意又は警告をしていたにもかかわらず、組合が依然として組合旗等の掲揚を中止しないために、やむをえず、掲揚されていた組合旗等を実力で撤去し、無断で組合旗を掲揚した組合員に対し、再発防止のための責任追及及び処分の警告を発したものであって、前述のようにサービス業に携わる原告にとっては、これらの措置は、職場の秩序を維持し、企業イメージの低下を防止するために必要な施設管理権の行使であって、組合が企業内組合として団結権を示すために組合旗を掲揚することが必要であることを十分考慮に入れても、それゆえに組合が原告の施設を使用できる当然の権利を有するものではなく、原告が組合の組合旗掲揚を受忍すべき義務もないというべきである。
(三) もっとも、組合が、昭和六一年七月一三日以降、被告の勧告に従い、組合旗の掲揚本数を六ないし一〇本程度に削減し、原告に対し組合旗の掲揚に関するルール作りをするために話し合うよう申し入れたのに対し、原告が、右申出を一切拒否して、組合が掲揚した組合旗を撤去し、組合旗を掲揚した組合員に対し処分警告書を発するに至ったことは、既に認定したところである。
しかしながら、組合旗の掲揚本数を六ないし一〇本程度に減少させたとしても、原告の唯一の営業所兼事務所の入口等前認定の場所に常時掲揚されている等前認定の掲揚態様のもとでは、原告管理施設の美観を損ない、通行人や乗客等に奇異な印象を与える等企業イメージの低下をきたすことにおいてはさほど変わりがないというべきである。
原告には、前記三で認定した家庭訪問等による組合脱退慫慂等の不当労働行為が認められるのであるから、組合が、組合旗を掲揚して団結を維持しようとしたことは、理解できないことではないが、組合旗の掲揚は組合が団結を維持し、組合員の意識を高揚させるための有効な一手段ではあるが、これを会社敷地内に掲揚することが、そのために必要不可欠であるとはいえないし、原告が久留米市及びその近郊の住民を主な顧客とするタクシー業者であり、経営状態が前認定のとおり数年来赤字に終始していた会社で、経営の改善が急務とされていたところ、組合旗が原告の唯一の営業所兼事務所に顧客らに一見して見える不体裁な状態で常時掲揚されている等前認定の諸事情のもとでは、いまだ原告が組合旗の掲揚を拒否してこれを撤去し、掲揚した組合員に対し処分警告書を発した行為が、専ら不当労働行為意思による行為であると断定することはできず、またこれを権利の濫用と認めるべき特段の事由があるともいうことができない。
(四) したがって、原告の組合旗掲揚禁止行為、撤去行為及び処分警告書を発した行為がいまだ権利の濫用であると認められない以上、原告の右各行為は、不当労働行為には当たらないというべきであって、被告が原告の本件組合旗掲揚に関する右各行為を不当労働行為として認定したことは違法というべきであるから、その認定を前提として発せられた被告の本件命令中主文2項及び4項のうち(3)に関する部分は取消を免れない。
六 運収管理基本協定及び対策委員会協定の破棄について
1 (証拠略)を総合すれば、以下の事実が認められ、右認定事実を覆すに足りる証拠はない。
(一) 平和は、昭和五〇年代後半ころから営業成績の悪化をきたしていたが、そのような状況下で、昭和六〇年七月、労使間では、別紙命令書の別紙1(略)記載の協定(基本協定)が締結された。その後水口は同年夏季一時金の支払の為の資金調達ができないことから、組合に対し、組合が労働金庫から借り入れて一時的に右一時金の支払を立替払して欲しい旨申し入れ、組合は、これを受け、同月二五日、平和との間で、右借入金の担保として、同命令書別紙2記載の協定(運収管理基本協定)を締結した。さらに、水口は、同年一二月分の給与の一部及び同年冬季一時金の支払が困難として、組合に対し、その資金調達のため労働金庫から借入をして、一時的に立て替えてくれるよう要請し、組合はこれに応じて労働金庫から借り入れることにし、その担保のために平和との間で、同年一二月一三日、同命令書の別紙3記載の協定(未払労働債権確認書)及び同命令書の別紙4記載の協定(対策委員会協定)を、同月一九日には、同月二〇日から行われる運収管理にのみかかわるものとして、同命令書の別紙5記載の協定(運収管理個別協定)をそれぞれ締結した。水口は右各協定を締結する際、社長の佐藤の承諾を得ていなかったので、水口及び組合執行部間では、右協定が、水口在任中に限り効力を有する趣旨の了解ができていた。
(二) 組合は、右運収管理基本協定、運収管理個別協定及び未払労働債権確認書に基づき、昭和六〇年一二月二〇日から同六一年一月三一日までの間、原告における運収の管理を行った。その方法として、組合は、各組合員の毎日の運賃収入を集金し、労使協議のうえ稼動のための諸経費を支払ったうえ、残額を労働金庫への返済金に当てていたが、同期間内には借入金の返済が完了した。
(三) 組合は、水口との間で、昭和六一年一月三一日、同命令書の別紙6(略)記載の退職金協定を、同年五月七日、同年度年間一時金にかかる同命令書の別紙7(略)記載の協定(昭和六一年度年間一時金協定)を締結した。
(四) 第一通産は、平和から営業の譲渡を受ける際には、右各協定書の存在を一切知らされずにいたところ、昭和六一年六月一三日、近藤からそれらの協定書の写を見せられて、初めてその存在を知るに至った。
そこで、原告は、組合に対し、同六一年七月四日、運収管理基本協定については、「不測の事態の予想又は発生も今後はあり得ないので現在の労働債権を協定で保証する必要はなく、まして本協定は経営権の侵害であるので、到底認められず、返って労使関係を混乱させる協定として当然破棄されるべき」として、対策委員会協定については、「前提条件がなく労働債権の確保についてもなんら問題はなく不必要であり、また、経営管理的規定は経営権の侵害にあたる」として、運収管理個別協定については、「現に未払労働債権は存在せず、またかかる協定は全く意味もなく内容自体が経営権の侵害である」として、いずれをも解約した。
以上の事実が認められる。
2 右認定事実をもとに原告の右運収管理基本協定及び対策委員会協定の破棄行為が不当労働行為に該当するかどうかを検討する。
そもそも労働協約とは、労働組合と使用者又はその団体との間で締結される労働条件その他に関する要式の協約であるところ、右両協定は、平和が、昭和六〇年夏季一時金ないし同年一二月分の賃金及び同年冬季一時金の支払資金をいずれも調達することができず、組合に対しその資金を労働金庫から借り入れてくれるよう要請し、組合がこれに応じるに当たり、平和からの返還を確実にし、その債務を担保させるために締結させたもので、一定の条件のもとで、組合が平和の運賃収入を管理することを内容とするものである。したがって、右両協定は、労働条件を直接規定したものではなく、むしろ、原告の経営権の制約となる内容であり、債権的効力を有するにすぎないものであるというべきである。そして、組合が右により労働金庫から借り入れた資金については、昭和六一年一月三一日までに平和が組合に返済し、右の担保目的はすでに目的を達して消滅している。しかも、右協定は締結者間で水口在任中に限り効力を有する旨の了承があったもので、原告は、同年六月、第一通産の会社買収により、経営者が全部交代し、右は社員権の譲受の形式をとってはいるが、実質的には、第一通産が平和から営業の譲渡を受けて平和の営業を引き継いだものであり、第一通産ないし原告の平和買収後の経営者らは、右営業譲渡契約締結の際右両協定の存在を知らなかったというのである。
このような場合、すなわち、右両協定においては締結された当面の目的はすでに達成され、しかもその内容が経営権の制約をもたらす債権的なもので、協定締結後実質的には営業の譲受により経営を引き継いだ原告の経営者らは右譲受時にその協定の存在を知らなかった等右に認定した諸事情のもとでは、原告は、事情の変更を理由に右両協定を破棄することが許されるものというべきである。
そうすると、原告が右両協定を破棄したことは、不当労働行為に該当しないものといわなければならない。
3 よって、被告が、右各協定破棄行為を不当労働行為と認定して本件救済命令を発したのは違法というべきであるから、本件命令主文3項及び4項のうち(4)に関する部分は取消を免れない。
七 結論
以上認定説示したところによれば、原告の本訴請求は、本件命令の主文2項、3項並びに4項のうち(3)及び(4)に関する部分の取消を求める限りにおいて理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条ただし書、九四条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 堂薗守正 裁判官 小泉博嗣 裁判官 山口芳子)
別紙(略)
《参考》 平和第一交通事件・福岡地労委命令
命令書 (福岡地方労働委員会昭和六一年不九号事件昭和六二年一一月二〇日決定)
申立人 平和タクシー労働組合
被申立人 平和第一交通有限会社
主文
一 被申立人は、次の行為により申立人組合の運営に支配介入してはならない。
(1) 従業員の身分一新の勧奨に際し、組合役員に対する利益誘導や威圧的発言及び組合員に対する組合誹謗や組合脱退慫慂の発言を行うこと。
(2) 新規採用者に対し組合不加入及び組合活動禁止条項を含む試傭誓約書の提出を求めること。
二 被申立人は、組合旗掲揚に係る昭和六一年八月二五日付の処分警告書を撤回し、撤去保管している組合旗等を申立人組合に返還するとともに、会社敷地内の組合旗等の掲揚について申立人組合と誠意をもって交渉しなければならない。
三 被申立人は、運収管理に係る昭和六〇年七月二五日付協定及び同年一二月一三日付協定について昭和六一年七月四日付で行った破棄通告を撤回し、両協定の効力が存在するものとして取り扱わなければならない。
四 被申立人は、本命令交付の日から七日以内に下記の文書を縦一メートル、横一・五メートルの白紙に明瞭に墨書して、点呼室の従業員の見やすい場所に一〇日間掲示しなければならない。
記
会社の下記の行為については、福岡県地方労働委員会により労働組合法第七条三号の不当労働行為と認定されましたので、貴組合に対し遺憾の意を表するとともに今後このような行為を行わないことを誓います。
記
(1) 従業員の身分一新の勧奨に際し、組合役員に対する利益誘導や威圧的発言及び組合員に対する組合誹謗や組合脱退慫慂の発言を行ったこと。
(2) 新規採用者に対し組合不加入及び組合活動禁止条項を含む試傭誓約書の提出を求めたこと。
(3) 昭和六一年七月一三日以降組合が掲揚した組合旗等を撤去し、組合旗掲揚に対し処分警告書を発し、撤去旗の返還に応じなかったこと。
(4) 運収管理に係る昭和六〇年七月二五日付協定及び同年一二月一三日付協定を一方的に破棄通告したこと。
昭和 年 月 日
平和タクシー労働組合
執行委員長 松尾勇夫殿
平和第一交通有限会社
代表取締役 花田謙
五 申立人のその余の申立ては、これを棄却する。